恋夜桜


私ははっとした。

「誰!?」

視線を桜にしっかりとあわせ、条件反射的にそう叫ぶ。

私が焦っているのが伝わったのか、控えめな笑い声が満開の桜の上から聞こえてくる。

「あ、驚かせてしまいましたか?」

どこかのんびりした男の話し方に、私は一気に毒気を抜かれてしまった。

なんというか、焦っているのが馬鹿らしくなる感じだ。

「驚くに決まってるじゃん……」

「それは申し訳ないことを、」

なんだろうこの状況は。

私はうなだれた。

もしかすると、否、もしかしなくても、この声の主は天然なのかもしれない。

「いいよ、気にしないで。……それより」

あなたは何者なの?

私は若干のめまいを覚えながら、桜の声に当然の疑問をぶつけた。

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