Fahrenheit -華氏- Ⅱ


そんなこんなで、二村たちのランチが運ばれてきた。


二村は食事をしながら、こちらも喋る、喋る!


緑川とどっこいどっこいだな。


話題はもっぱら俺の彼女の話で……と言うか、二村は俺の本命の彼女のことをあれこれ聞き出してくる。


その質問に当たり障りのない返事を返して、何とかスルーさせたいものの、二村はどこまでも食いついてくる。


女みてぇなヤツ。


心の中で思っていたが、正真正銘女性である二人は二村のお喋りを聞きながらだんまり。


話を振ると何とか答えてくれるものの、向こうから会話に加わることはない。


一体―――何だって言うんだよ。


妙な居心地の悪さを覚え、食事を終えるとコーヒーも飲まずに俺と緑川は先に席を立った。


店を出ると緑川はいつも通り明るく喋りかけてくる。


何だってんだ?と首を傾げながらも、深く立ち入りたくなかった俺は何も聞かずにいた。


そんなわけで会社に戻ると、従業員入り口からほとんど飛び出すような勢いで出てきた桐島が入ろうとしていた俺の肩とぶつかった。


俺の方が背も高いし、体格もいいから俺にぶつかった桐島がそのダメージでよろける。


俺がヤツの腕を掴んで、戻すと桐島は血相を変えて俺を見上げてきた。


「どーしたんだよ」


『お疲れ』の挨拶もなしに、俺はただ事じゃなさそうな桐島に聞いていた。


「マリが産気づいた。今病院だって」


桐島は顔を青くして、消え入りそうな声で何とか答えた。




< 210 / 572 >

この作品をシェア

pagetop