Fahrenheit -華氏- Ⅱ




「瑠華―――……」


まるで睦言のように繰り返される甘い声を聞きながら、


啓の左の瞳をじっと見つめていると、淡い色をしたその色で世界が染まっていくよう―――


体がふわふわと浮くような心地いい感触に体をゆだね、まるで水の中を漂っているような不思議な感覚に陥って―――





―――……あたしはゆっくりと目を覚ました。


覚えのある香り。覚えのあるぬくもり。


「………あったかい…」


あまりの心地よさに思わず頬ずりをして擦り寄ると、


「…ぅ~ん…」


と啓が寝言を呟き、かすかに身じろぎした。


啓はまるで少年のような無邪気な寝顔で、心地よさそうに眠っている。


起きてるときはいつも笑顔で元気が良くて、たまに見せる色っぽい表情とか…


ころころ変わる表情が好き。


だけど寝顔は子供みたいに可愛くて……



愛しい。





無意識なのか、あたしの肩に手を置き、そのまま抱き寄せると、きゅっと引き寄せる。


啓の肩から胸にかけての場所が、あたしのベストポジション。


そこで眠ると心地いい。


啓の愛用している香水をポプリに染み込ませて、クローゼットに勝手に入れ込んだのはあたし。


だからパジャマにも香りが移ってるの。


あたしはこの香り……大好き―――


大好きな香りに包まれて、温かいぬくもりに抱きしめられて、このまままた眠りにつこう。


そうすればまた啓の夢が見られる。


そんな気がした。





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