Fahrenheit -華氏- Ⅱ



ふてくされたように腕を組んで顔を背けると、


「わぁ!!分かった!!俺が悪かった!」


裕二が俺の腕を掴んできた。


「俺に触るんじゃねぇ!」


ぎゃぁぎゃぁ喚き声が会議室に響き、


大丈夫か…?とちょっと今更ながら不安になった俺。



ぐちぐち文句を垂れている横で、裕二はさすがに悪いと思っているのか大人しくスマホに指を走らせている。


スピーカーにした受話口から『TRRR』と言う呼び出し音が鳴った。


一回呼び出し音が鳴っただけで、テーブルに置いた黒いスマホから、


『もしもし!裕二!?』と勢い込むような女の声が聞こえてきた。


「………も、もしもし…」


その声を聞いただけで裕二は顔を青くさせて、逃げるように腰を引いた。


“今日一日のことを謝って、用件を伝えろ”


俺は裕二に口パクで伝えると、裕二は困りながらも僅かに頷いた。


「……きょ、今日はごめん……せっかく来てくれたのに…」


裕二はぎくしゃくと謝った。


言葉尻が変な風に裏返ったのは思ってもいないことを口にしているせいか、それとも緊張の現れなのか。


どっちみち裕二らしからぬ引き腰だった。


だけどストーカー女は一向に気にしてない様子で、


『ううん!大丈夫!裕二だって忙しいのに、こっちこそごめんね』


と、まるで本当の恋人同士のような会話で謝ってさえ居る。




こりゃ相当なもんだ。と改めて実感。






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