Fahrenheit -華氏- Ⅱ



某有名デパートの休憩コーナーの長椅子に座り、自販機で買ってくれたミネラルウォーターのペットボトルを手渡される。


「…すみません、少し食べ過ぎたみたいで、胃もたれです」


あたしは苦笑いで胃の辺りを押さえた。


本当は胃もたれなんかじゃない。


啓の携帯の中に表示されていたあのたった二文字を思い出して、胸の中がもやもやと嫌な気分で満たされ、まるで鉛を打ち込まれたように


痛い。



膝の上に置いたバッグからディズニーのプーさんのイラストが描かれたパスケースから“リスペリドン内用液”と書かれた細長い経口剤を取り出した。


綾子さんは不思議そうにしてたけれど


「胃薬です、最近調子悪いので」


曖昧にごまかしてあたしはその液体を口の中に流し入れた。


苦味に顔を歪ませながらもそれを飲み込み、小さく深呼吸する。


「残業ばかりだものね、外資は。


啓人に言っておくわ。あんまり無理させるなって」


綾子さんはストレス性の胃弱だと勘違いしたらしく、腕を組み目を吊り上げる。


「いえ、本当に大丈夫です。仕事じゃありません」


慌てて言って、その後にはっとなった。






「じゃぁ他のこと?」






そう聞かれて、あたしの手からペットボトルが床に落ちた。





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