Fahrenheit -華氏- Ⅱ


心音ちゃんは、まるで薔薇のようにも血のようにも見える赤い液体……でも、どちらも例えるには微妙に違う色をしていた液体を二つのグラスに注いで、一つを俺に寄越してきた。


何故心音ちゃんが瑠華の元旦那のヴァレンタイン財団のパーティーに出席するのか気になって、グラスを手渡されても乾杯することすらできなかった。


ダメだな、俺。瑠華の元旦那の名前を少しでも耳にすると、過剰な程反応…と言うか動揺?しちまう。


心音ちゃんはそんな俺の心情を知ってか知らずか、俺のグラスにカチンと合わせて勝手に「乾杯」


ソファに深く背を着くと心音ちゃんは両腕をソファの背に投げ出し、ゆっくりと脚を組んだ。





「元々Maxを瑠華に紹介したの、あたし」





と、何の前触れもなく唐突に切り出されて俺はグラスを持ったまま目を開いた。


「瑠華はFahrenheitを立ち上げたばかりだったから、どこか強力なConnectionを作った方が良いって、勧めたの。


Maxの性格はともかく、そのNamingvalueは魅力的だと思わない?」


悪戯っ子のように微笑まれ、俺はぎこちなく頷いた。確かにヴァレンタインのネームバリューは心音ちゃんが言う通り魅力的だ。


「Maxとあたし、ちょっとした繋がりがあって。あ、勘違いしないで。Boyfriendとかじゃないから。


でも……そうね、最初は単なるBusiness目的だったわ」


元々水を一杯貰うつもりでここに来たのが目的だったから喉は渇いていた筈なのに、俺は心音ちゃんから差し出されたワインを喉に通す気になれなかった。


心音ちゃんがマックスを瑠華に紹介しなかったら、瑠華があんな風に傷つくことはなかったんじゃないか―――


と思うが、その一方で、


いや、瑠華と俺が出会えたのも、瑠華がその道を……過去を通ってきたからだ。もし瑠華がマックスと出会って居なかったら、俺も瑠華に出会えてなかったかもしれない。


そう思うと、ちょっとだけ心音ちゃんのしたことがありがたく思えてきて


俺はようやく差し出されたワインに口を付けることができた。


それはガツンとした渋味と重さをした、フルボディだ。瑠華が好きな種類。


不思議だな。瑠華と出会ったばかりの頃は、瑠華がどの種類のワインを好きか、なんて知る術もなかった。


けれど、最近俺は会社での単なる同僚以上の情報をたくさん知ってる。


そう思うと



やっぱり心音ちゃんには感謝かな……


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