Fahrenheit -華氏- Ⅱ
*Side Ruka*
.。・*・。..*・ Side Ruka ・*..。・*・。.
ピンピーン
インターホンが鳴り、あたしは顔を上げた。
「はい」
短く答えると、あたしは部屋に招く為にエントランスホールの扉を開けた。
再び、インターホンの音が鳴り、近くにあった適当なパンプスを履き、扉を開けると
紫利さんが立っていた。
見るも鮮やかな素敵な和服姿。
襟元から胸元まで白い生地に桔梗の柄、斜めに走った白い生地に裾がアシンメトリーに流れていて、袖や白の生地に走った黒い生地。黒い生地はシンプルで彼女の手首の細さをさりげなく誇張してるのか、見事な訪問着。
帯は流行を取り入れているのかマーブルに近いゆるかな曲線を描いていて。黒。ベージュ、グリーンがまたオシャレだった。帯しめは黒で、とても上品。
「ステキ」
思わず口にしてしまった。
「ありがとう。久しぶりに着物来た来たから案外てこづちゃって、遅くなってごめんなさい」
と言いながら紫利さんはあたしに細長い紙袋をあたしに手渡してきた。
「これ、お土産」
と言って手渡さたれたものは立派な桐箱で深い藍色のベルベット素材の中、淡い緑色のボトルの日本酒?みたいなボトルが入っていた。
「ごめんなさい、お酒の趣味が分からなかったから、これを」
緑のボトルには上品なゴールドの文字で“月香”と書いてあった。
「月?“げっか”?」
私がまじまじとそのボトルを見つめていると
「“ゆえか”月は中国語で“ゆえ”と言うのよ?私の源氏名。去年のお誕生日にクラブのママがプレゼントしてくれたものなの」
「そんな大事なものを―――いただけません」
思わずそっと桐箱を仕舞うと
「飾ってあるだけで飲まれないとお酒も寂しいでしょ?私一人じゃ一回で飲み切れないし」
とは言っても740mlぐらいだ。
紫利さんはお酒に強いだろうに、こんな大切なお酒をくれるなんて…
「一緒に呑む相手が欲しかったの」
紫利さんは私の耳元でそっと囁き、その声はまるでイタズラっこのように無邪気で弾んでいた。
啓がいっとき“恋”をしていた相手なだけある。
いや、恋なのかどうかは定かではない。あたしも、きっと啓もその複雑な感情を何と捉えていいのか分からないのだろう。
敬愛、尊敬―――色々複雑な感情が入り混じった、たった一言で現せるものではなかったようだ。