水色の風

素直に2人分のコーヒーだけを持ってきた咲恵は、
俺の前にカップを置き、
そしてテーブルを挟んで自分も椅子に座る。

伏目がちにコーヒーをすする咲恵をじっと見つめた。

俺は何も知らない、彼女のことを。


眠くもないのに、また頭に霧がかかり始めるのを感じた。


「咲恵」


何を言うつもりなのか、口が勝手に動いた。
まともに、彼女の名前を呼ぶこともほとんどなかったのだと、今更気付く。

何も答えない咲恵は、確かに綺麗なのかもしれない。
でも、俺の知っている彼女の美しさとは、少し違う。


「俺のクラスに…お前のこと気になってるって奴がいるんだ」

「うん」


別にどうでも良かった。そんな事が言いたいんじゃない。
でも何がしたいのか自分でもわからなかった。


「咲恵が…美人だって…」

「へぇ」


だからどうしたというのだ。
馬鹿みたいだ、俺。
指先が少し震えている。

俺はずっと、
彼女と自分は同じ固体で、
同じ感情を抱えていて、
だからこそ溶け合うことができるのだと思い込んでいた。

そこに何も必要はないのだと。

喉が渇く。

でも今カップを手にとったら、
襲ってきている不安のために指先が震えていることを咲恵に気付かれる。

搾り出すように声を出した。


「……俺……いつか、咲恵を……抱くかもしんない……」


咲恵がカップを置いた。
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