ささやかではありますが
お隣さん


今に始まったことじゃないけど、隣に住んでる椎名(しいな)さんは心底情けないなぁって思います。








「どうしよう、華(はな)!」


チャイム鳴らさずにあたしの家に入ってきた椎名さんは顔面蒼白。
いや、帰って来てすぐに鍵をかけなかったあたしも悪いけど。


「なに、また電車ん中に携帯置いてきちゃったんですか?」


あたしは読み掛けの文庫本を床に伏せ、一応椎名さんの目を見て話してあげる。
同じようなシチュエーションで、3日前、椎名さんは電車に携帯を置いてきてしまったことがあった。
椎名さんは顔は綺麗なのに、どっか頭が弱いところがあるから、引き返して駅員さんに申し出るとかそんなことは考えつかなかったみたいで、バタバタと帰ってきて何故か真っ先にあたしに泣き付いた。
あたしが「駅に電話してみればいーんじゃないですか?」って淡々と提案して、その時点でやっと「あぁそっかそうだよね!」って、ほんともう何でそんな常識的なことが分からないんだろう。


「違うの!携帯はちゃんと持って帰ってきたって!」


ほら、とあたしの前に自分の携帯を突き出す椎名さんを、「あーいいです見せなくて」と一蹴。
携帯をきちんと持って帰ってくるのは威張るほどのことじゃないはず。





2ヶ月前、隣の部屋に越して来た椎名さんはバンドマンだ。
このせちがらいご時世に、椎名さんはわざわざあたしの部屋に挨拶に来た。
ピンポンが鳴ってドアを開けたら、ピアスいっぱいで髪がなんか複雑なブレイズ?みたいになってる男の人が立ってたから、あたしは「やばい犯される!!」とか思ったんだけど、「隣に引っ越してきた椎名です」って菓子折り差し出してにこーって笑った姿を見て拍子抜け。
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