CL





「……あれ…?」


薄暗い寝室に入ってきた黒崎は、どういうわけか眼鏡をかけていた。

私はベッドの上で膝を抱えて座ったまま、こちらへ歩み寄ってきた彼の顔を見上げる。


「黒崎くん、目悪かったの?」

「そうですよ?普段はコンタクトなんで」

「そ、そうだったんだ……」


知らなかった。これも新しい発見。

黒縁の眼鏡をかけた黒崎は、どこか違う人のように思える。

妙に、というか、異常なまでに心臓がうるさいのは、黒崎が眼鏡をかけているから、だけだろうか。

なんて、そんなはずない。

だってこの状況、どう考えたって。


「……先輩、緊張しすぎですから」

「へっ!?」


黒崎がベッドに腰掛けるのと、私が飛び上がるのとはほぼ同時で、ベッドのスプリングが派手に軋んだ。

失態を晒してしまって、カァッと赤くなる私を見て、彼は眼鏡を外しながらクスクスと笑う。


「緊張してる先輩も可愛いですけどね」

「なっ……!」


可愛いって言うの、やめてって言ってるのに!

そう反論しようとした私は、けれど黒崎に膝を抱えていた両手を取られて、思わず開きかけた口を閉じてしまった。

グッと、一気に距離を縮められる。呼吸が止まった。




< 92 / 192 >

この作品をシェア

pagetop