渋谷33番
 倒れた椅子を直した後、吉沢が駆け足で追いついてくる。

 それを知ってか、植園は歩きながら続けた。
「全力で松下野々香の行方を捜しなさい。家庭課にも応援を頼んで。事件と失踪の両面からのアプローチでね、分かった?」

「はい、すぐに出かけます」

「私もあとで合流する。もしかしたら山本と松下の共犯ってこともありえるから、慎重にね」

「了解」


 吉沢が出てゆくのを見送って、植園は机に座った。まるですっかり歳をとってしまったかのような緩慢な動きだった。

___松下野々香の失踪


 それは考えてもみないことだった。自分の勘を頼りにこれまでやってきた植園にとってショックの大きい出来事だった。

 窓の外を見る。今にも雨が降りそうな空模様だった。
















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