渋谷33番
 電話のベルが鳴った。出ようとする後輩を手で制して、植園は受話器をとった。

「こちら裁判所の大石ですが」
聞きなれた低い声だった。

「あぁ、植園です。早いんですね」

「急ぎだと念押ししたのはそちらでしょう」

 几帳面な声に顔をしかめる。苦手な相手だった。
「どうです?松下野々香の携帯電話記録開示の令状、出してもらえますか?」

「無理ですね」
間髪いれずに大石が答えた。


「無理?」

「容疑者は山本雪乃でしょう?それなのに、どうして彼女の携帯が必要なんです?」

「それは!」
つい大声になり、植園は声をひそめて続けた。
「証拠書類も添付したはずです。彼女にも容疑がかかりだしたんです」


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