渋谷33番
「和美ちゃんは帰る家がないって?」

 車は首都高を走っていた。ミラー越しに武藤と目が合う。やはりその、眼力に思わず身が固くなるのを和美は感じた。

「アパートは引き払っているし、当分は健康ランドにでも泊まろうかと思っています」

「実家は?」

「事情がありまして、戻れないんです」

 やりとりを聞いていたサキが助手席から振り向いて、
「え~ダメだよ」
と、口をとがらせた。

「大丈夫だよ、すぐに仕事探すからさ」
何気ないふうに言ってみたが、サキは「ダメダメ」と身体ごと横に揺らして否定した。
「ねぇ、武藤さん~なんとかしてあげてよ」

「そうだなぁ」
武藤はミラー越しに和美を見てつぶやいた。また目が合い、緊張する。
「うちの事務所で働けばいい」




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