渋谷33番
 高橋は黙って雪乃を見つめた。

 数秒の間のあと、高橋は、
「なるほど」
とつぶやいて何やらメモをした。雪乃がそのメモを見つめる。

 高橋はペンを置くと、手を顔の前で組んで口を開いた。
「おそらく警察は、その友人の名前はとっくに知っていると思う。たぶん彼女が、君を覚せい剤の売人に仕立て上げたんだろう。彼女は君に罪を着せようと嘘をついている。だから雪乃ちゃんも警察にその友達の名前を言ったほうがいいと思う」

「同じ部屋の人もそう言ってました」

「いいかい、逆に言えばその友達がこの事件を動かしている首謀者である可能性が高い。僕は刑事さんからそのへんの情報を聞き出すから、まずは名前を教えてくれるかい?」
にっこり笑って高橋は目を線にした。

 雪乃はうなずくと、ため息のような息を吐いた。
「松下さん・・・松下野々香という人です」

「漢字はこれで合ってる?」
ガラス越しにノートを見せた。几帳面な文字が並んでいた。

 ノートの字から目を離さずに雪乃はうなずいた。


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