龍とわたしと裏庭で②【夏休み編】
さすがに圭吾さんの部屋に行くのに口実が必要で、わたしは勉強道具を抱えてドアをノックした。

返事がないので勝手にドアを開けて『圭吾さん?』って声をかけた。

テラス窓のカーテンが揺れて、圭吾さんが外から入ってきた。


「志鶴? どうした?」

「えっと、ここで勉強していい? 分からないところ教えてほしいの」

圭吾さんの口元が微かにほころんだ。

「おいで」

わたしは中に入ってドアを閉めた。

圭吾さんの前まで歩いて行くと、抱えたノートとテキストを静かに取り上げられた。

「数学?」

「うん」

でも数学より今の圭吾さんの方が難問だ。

勉強が口実だって二人とも分かってる。


こういう場面で『キスして』って言えばいいんだよね。

ああ、でも今のわたしには無理!

ここに立ってるだけでいっぱいいっぱいだもの


圭吾さんはすぐ横にあるサイドテーブルにノートとテキストを置いて

それから そっと

ふんわりと

わたしを抱きしめた
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