最後の人やな
朝の街の空気はいつもより格段に軽かった。

こんなにもすがすがしい空気を吸ったのは

一体何ヶ月ぶりだろうか。

作戦実行を思わずためらうほどに

俺の町の空気は魅力的に思えた。

必死になって邪念を振り払い

駅前でタクシーを拾った。

運転手は感じのいい50歳前後のおっちゃんだ。

俺はタクシーに乗り込み

諭吉さんと樋口さんをおっちゃんに渡した。

「これ使って東京まで、行けるとこまで行ってください。」

タクシーのおっちゃんは一瞬キョトンとしたが

すぐに車を走らせた。

そう、俺の計画とはただ自分の居場所から逃げ、

まったくの新天地で生活することだった。

当時の俺の思考回路では

それ以外に現状を変える方法は思いつかなかった。

ただ漠然とした行き先として東京を選んだのは

当時の俺にとって東京という響きはどこか

革命的な響きで、俺を変えてくれそうな気がしたからだった。



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