チャリパイ8~恋のエンゼルパイ~

シチローから電話で話を聞いた後も、耕太はまだ迷っていた。


詩織のお見合いの相手は、IT企業の社長だという……
こんな図書館勤務の今の自分と付き合うよりは、IT企業の社長と結婚した方が詩織にとって幸せなんじゃないだろうか……


図書館の受付に付きながら、耕太はそんな事を考えていた。


その時だった……



詩織と歳格好のよく似た女性が耕太の目の前に立ち、一冊の小説の貸し出しを申し出た。



そして、手続きをする為にその女性から小説を受け取った耕太だが、その小説のタイトルを見た瞬間耕太の手が止まった。


それは忘れもしない……
あの満月の夜に、詩織の家まで届けに行った推理小説の下巻だった。



耕太の脳裏に、あの夜の光景が再び蘇った。


無邪気な顔で微笑む詩織の横顔……


体中が温まるようだった百二十円のホットカフェオレ……


二人で小説の話を夢中になって語り合った、あのかけがえのない夜の事を……



「やっぱり僕は詩織さんでなきゃダメなんだ!!」


突然の大声に目を丸くして驚く女性を後にして、耕太は図書館を飛び出した!


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