それでも君が。
──何かの間違いだと思いたかった。
あの街中で、私をその視界に入れたにも関わらず、知らないフリをした蒼君。
何かの間違いかもって。
蒼君が私を避ける訳ないって、そんな根拠のない自信みたいなものがあった。
蒼君の心なんか読めないくせに。
分からないくせに……。
私、バカだ。
「蒼君!」
私が追いかけるほんの少し前に出て行った蒼君は、隣にある自分の家の前にいた。
今まさに玄関を開けようとしている所のようだった。
私の呼びかけに動作を止めた蒼君は、それでも振り返ろうとはしてくれない。
胸の神経が剥き出しになってしまったような、そんな感覚。
痛い。
痛いよ、蒼君……。
でも、そんな風にヒロインぶってる場合じゃない。
早く何かアクションを取らないと、蒼君行っちゃう……!
「あ、あの、ね……」
そう切り出そうすると、蒼君が顔だけを私に向けた。
その手は、ドアノブにかかったままだ。