ももいろ
あたしは鏡を見ながら、顔に薬を塗りたくった。

かゆみはだいぶおさまってきたし、腫れも引いてきた。

このぶんなら、あと3日もすれば出勤できそうだ。



仕事かぁ。



「俺はヤキモチ焼きなんだよ!」



司くん。

あたしはいろいろ思い出して、嬉しいような恥ずかしいような



申し訳ないような



複雑な気分になった。

司くんがあたしを大事に思ってくれているのは、純粋に嬉しい。

すごく幸せ。

でも

こんな自分にそんな価値はない、とも思う。

司くんに言ったら、きっと怒るだろうな。

プリプリする司くんがあまりにも簡単に想像できて、少し笑った。

司くんに大事に思われる価値のある人間になりたいと思う。

司くんと一緒にいて、恥ずかしくない自分になりたいと思う。

あたしがダメなのは、仕事だけじゃない。

逃げるのを、やめなきゃ。



何から?

どうすれば?



わからない。



ただ、また美容師がやりたいなって思った。

今、わかるのは、それだけ。

司くん、最初はどうでもよさそうにしてた。

短くなればいいや、くらいにしか思ってなかったんだろう。

髪型って重要なのに…

どんな髪型にされてもいいなんて、よっぽど自分の顔に自信があるのか、呆れるほど無頓着なのか。

司くんはたぶん…両方だな。

頭の形いいし、顔小さいから思いっきり短くしてもいいんじゃないかなと思ったんだけど、何言っても

「サツキさんにおまかせ」

しか言わなかったのに。

切り終わって鏡見せたら、すごく気に入ってくれてよかった。

ほら、司くんってわかりやすいから。

あれは、相当喜んでくれてたに違いない。

「すごい!俺カッコいい!サツキさん天才!」

とか言ってたし。

実際、予想以上に似合っててちょっとドキドキした。

久々に人の髪を触って、いろいろ思い出した。

でも…

あたしの短い美容師としての思い出には、必ず



早紀がいて…



早紀は今、幸せ?

あたしは幸せになる資格ある?

あたしはまた、そこで思考を止めてしまう。



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