ももいろ

【ハウスキーパー・1】


「司くん、荷物それだけなの?」

サツキさんが驚いている。

ボストンバック3つに、ギター、練習用の小さいアンプ。

以上、俺の全財産。

「そう」

機材車で、といっても谷川が中古で買ったハイエースなんだけど、サツキさんのマンションまで送ってもらった。

帰り際、谷川は先にサツキさんを降ろし、俺に耳打ちした。

「サツキちゃんっていいよなあ司。うらやましいぞ一緒に住むなんて。でもおまえマジで変なことすんなよ」

もう。うるさいな。

「変なことって何」

谷川は嬉しそうに俺の背中をバシバシ叩いた。

「やっだあ。わかってるくせに!司のエッチ!」

痛いなあもう。

俺は送ってくれた礼を言った後、

「おばちゃんみたいになってる、おまえ」

と付け加えてドアを乱暴に閉めた。





俺はあまりにも立派なマンションに息をのんだ。


すっげぇ、家賃超高そう。


エントランスなんか、ホテルみたい。

俺はさすがに萎縮してしまい、エレベーターの中でもずっと黙っていた。

サツキさんは、

「本当になにもないけど、あがって」

と言い玄関にブーツを脱ぎ捨てて、スタスタと部屋に上がっていった。

まあ、自分ちなんだから当然なんだろうけど、それにしても…

警戒心なさすぎじゃない?

いくら俺がオーナーに世話になってる人間だからって、こんな簡単に男を自分の部屋にあげるなんて。

しかもしばらく一緒に住むんだよ?ありえないでしょ。

俺はサツキさんのブーツを揃えてから

「お邪魔します…」

多少緊張しながら部屋に入った。


すっげー。超広い。

その辺のファミリータイプより広いんじゃないの?

しかもモデルルームみたい。生活感、ないなあ…


「ここ、リビングね。そんで、こっちがキッチン。あ、ここ司くんの部屋ね。こっちはあたしの部屋だから」

サツキさんは部屋の説明をしていった。

これは確かに、多少物音立ててもわかんないわな…。

「あたしの部屋以外は、好きに使ってくれていいから」

「はい…お世話になります」

サツキさんは、ふふっと微笑んで、よろしくね、と言った。
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