ももいろ
【バンドマン・2】
びよ〜ん
うぁんうぁんうぁん
「うっさいよ司」
スタジオ。
ギターで遊んでいたら、谷川に怒られた。
「ごめん」
それなら違う音出そう。
りろりろりろりろ
わぅわぅわぅわぅ
「うるさい司」
太田にも怒られた。
「ごめん」
今日はワンマンに向けて、通し練習をしている。
途中で止めて、セットリストの細かい調整を二人で相談している。
俺?
俺は微調整には口出ししない。
最初に、大体こんな流れでいかが?とざらっと曲順を並べるのは俺。
一応作曲は全部俺がしてるから、こだわりとかあるわけ。
そこを、演奏しててしんどくないかー、とか、谷川的にはこっちのがいいー、とか、太田的にはこうしたいー、っていうのを通してみて相談する。
最近は、なんとなくお約束のセットリストになってた。
この曲は盛り上がるからココ!とか。
でも、ワンマンになると勝手が違う。
演奏時間が長いから、曲が増える、当たり前だけど。
新曲とか、普段やらない曲とかたくさんだし、いつもとは違う緊張感がある。
ぴろぴろぴろぴろ
ぎゅわーん
「…」
これなら文句ないのか。
俺はちょっと演奏するのが大変な曲のソロを、そのまま練習することにした。
来月のワンマンね、レコード会社の人が見に来るんだって。
メジャーレーベルだって。
今時そんなこと、あるんだねぇ。
バンドを組んだ当初は、ビッグになってやるー!とか寒いこと言ってた。
ビッグって。
若かったからね、19だったし。
最初は細々とやってたけど、ライブハウスでちょっとずつお客さん増えてきて。
大変だったよ昔は、チケットノルマとか全然さばけなくて、ライブやるたんびに赤字。
今は、ありがたいことに余裕で、逆に黒字。
ちょこっとだけどね。
谷川はメジャー指向が強いから、ものすごく気合いが入ってるみたい。
俺は、ぶっちゃけどうでもいい。
ただ、初ワンマンに緊張するだけ。
だってさ?
そんな、いきなりメジャーデビュー!なんてないじゃん。
どんだけ運がいいんだよ。