ももいろ

【バンドマン・3】


「司くん、忘れ物ない?」

「うん、ない」

「ネクタイは、ちゃんと持ってる?今日は打ち上げあるんだよね?帰りは何時くらい?」

ギターケースを抱えてブーツをはきながら、司くんは不審そうにあたしを見た。

「何?サツキさん…。どうしたの、今日は」


あたしはいつも司くんがライブだかバイトだか知らないから、いってらっしゃいくらいしか言わない。

「いや、ほら、今日は大事なワンマンでしょ?大丈夫かなと思って」

「ふーん?ありがと。大丈夫。じゃ、いってきます」

「いってらっしゃい」

司くんは手をひらひらさせて出ていった。

いつも通りだなぁ…緊張とかしないのかな?

あたしが変に緊張しちゃう。

何着ていこう…

後ろの方で見るつもりだけど、司くんにはライブ見たこと内緒にしたいから、いつもと雰囲気が違う格好していこうかなぁ。

ここで普通に、

「見に行くからね!楽しみにしてるよ!」

なんて言えたら可愛いのかな。

あたし、ダメだぁ。

変に意識しちゃうよ。

司くんのバンドに興味持ったなんて、知られたくない。

あたしがただの同居人だから、やいやい世話焼いたりしてくれてるんだから…

司くんに、居づらいなんて思われたくないし。

…まぁ、いずれは、出ていっちゃうんだけど。

それで、お別れなんだけど。



司くん…



玄関でボーっとしていたら、すごい勢いでドアが開いて司くんが顔を出した。

「!つ!な、な、ど、ど…」

あたしは驚きすぎて言葉が出ない。

「サツキさん!」

司くんは鬼の形相だ。

「な、何!?」

「何時に帰ってくるのって…あなたまさか、ホストにいくつもりじゃあ」

えー!

なんでそーなる…

ライブ後、小雪と彼氏さんとごはん行く予定だけど、司くんより先に帰ってきておこうと思っただけだよ。

なんて言えない。

ていうか、一人でしんみりしてたところに、急に司くん、戻ってきて…

「ぎょ、サツキさん!?」

あたしは情けないことに、少し目頭が熱くなってしまった。

司くん。

「あわわ、どーしちゃったのサツキさん」
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