【キセコン】とある殺し屋の一日
序章
ふらふらと。
夜も明けきらぬ薄闇の中を、一人の男が歩いている。

ここは京処(みやこ)の外れ、色町の大通り。
宵の口は活気のあるこの町も、明け方ともなれば普通の町と同じく眠りにつく。

男は何故か、疲れ切ったように、人気(ひとけ)のない通りを歩いていく。

そのとき不意に、男の肩に大きな鴉がとまった。
特に驚くこともなく、ちらりと鴉に目をやった男は、一つ息をついて顔を上げた。

前方に小さな影が、朝靄に紛れて佇んでいる。

「よいっちゃんも、こういうところに逃げ込むようになったのねぇ」

からかうような声が聞こえ、前方の影は靄を割って、ゆっくりと男に歩み寄る。
現れたのは、小さな女子(おなご)。

「・・・・・・こういうことを教えたのは、藍(らん)さんじゃないですか」

男---与一(よいち)が憮然と言う。

見た目はどう見ても、与一のほうが年上だ。
与一は十六。
もう身体つきも、一端の大人と変わらない。

一方ちょこちょこと与一と並んで歩く女子は、与一よりも軽く頭一つ分も小さい。
せいぜい十二、よくて十四ぐらいにしか見えない。

だがその容貌は、人間離れした美しさだ。
抜けるように白い肌に、大きな黒目がちな瞳。
色素の薄い髪を頭頂部でまとめた姿は、まさに天女の如し。
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