【キセコン】とある殺し屋の一日
「ほらっ、よいっちゃん」

「んがっ」

ぼんやりしていた与一の口に、稲荷寿司が押し込まれる。
与一は目を白黒させて、押し込まれた稲荷を飲み下した。

「・・・・・・っ。な、何するんですか、いきなりっ」

「余計なこと、考えないのよ。うふ、美味しい?」

さらりと与一の頭を読んだようなことを言い、次の瞬間には、いつもの笑顔になる。
不思議、としか言いようがない。

「ん~、美味しい。ほら、これ、よいっちゃんの分ね。あっ! また行列が来たわ。よいっちゃん、負ぶって!」

稲荷の包みを押しつけ、藍は与一の返事を待たずに背後に回ると、ひょいと彼に飛び乗った。
異様に軽い。

「うひゃあ~、凄い。ね、見て! あの天辺なんて、どうなってんのかしら。あ、あたしのお稲荷さん、食べちゃわないでよ」

背中で騒ぐ藍に、与一は黙って稲荷を口に運び続ける。
器用なことに、与一が支えなくても、藍は与一の背中に貼り付いている。

「ああん、あたしにもお稲荷さんちょうだい」

「だったら、降りてきたらどうです」

「やだ。よいっちゃんは背、高いからいいけど、あたしは降りたら見えなくなっちゃうもの」

「人の背中に乗ったまま、飯食わないでくださいよ。重くなるじゃないですか」

「お稲荷さん食べただけで、そんな重くならないわよっ!」

きゃんきゃんと言いながら、藍は与一の肩越しに手を伸ばす。
与一も、うんざりしながらも、結局稲荷の包みを渡してやるのだ。
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