管理人C
番号が割り振られた窪みを指で引っ掛けて回していくと、ジーコジーコと
独特な回転音が聞こえてきた。



下水道の水音とダイヤルが回る音。私は床の番号を何度か首を振って確認する。
それだけの空間が2、30秒続き、受話器を耳に当てた。


ちりりりりん、ちりりりりんと、
壁の向こうからかすかに黒電話のベルの音が聞こえてくる。



5分ほど粘ったが、誰も出ない。いったん受話器を置いて10分ほどしてからもう一度
掛け直す。それを2、3回繰り返したが、誰も電話にでなかった。





掛けっぱなしにして、ベルの音が聞こえてくる方向へ行ってみようとするが、
右のドアも、左のドアも開かず、ここへ来たドアの方は、全く逆方向だから意味が無い。
それにここを留守にするのはさすがにまずい。仕事をしているのだということを
忘れてはならない。


「まいった。降参だ」



私は小声で呟き、
カメラマンやリポーターが開かずのドアの向こうで隠れていると思い込み、
左右のドアを見回して作り笑いを浮かべた。
隠しカメラが管理室内のどこかに仕掛けられており、
知らない誰かが私が困っている様子を、いたずらっぽい笑みを浮かべて見ている。





これまでのことはドッキリ企画なのだと、『架空の作られた現実』だとリポーターに
宣告され、私が目撃した一つの世界の考察は幕を閉じ、これまでに悩んだ事は全て
なかったことに出来る。


でも、そうはならない。私が見ていることは、現実なのだから。
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