妄想彼氏
「あれ、妃さんじゃないですか」

「水季が泣いてたよ」

「…ドンマイって言ってあげたよ」

「ナイスです、妃さん」

「……利緒ちゃん、もしかして水季の事で怒ってる?」

「いえ…怒ってるように見えますか?」

「うん。私今めちゃくちゃいらついてるから気軽に近寄ってくんなオーラ出してた」

「なんかすごいオーラですね」

「はは…」

他愛のない会話の間にスルリと紛れ込んだ沈黙。

一人は一人を心配し、もう一人は今にも心が折れそうになっていた。

その沈黙を先に破ったのは妃さんでも、私でもなく。

「前田?」

「藤坂君…」

藤坂君だった。

「げっ何で泣いてんのよ…」

すると藤坂君は私の頭を撫でてくれた。

藤坂君は私がどうやったら喜ぶか既に知ってた。

でも私はいまだに無表情で。

私は大丈夫だ、と相手に感じて貰いたくて、でもそれが逆に相手に心配させて、自分勝手だと思った。

笑いたい

笑いたいのに。

笑えない。

そんな状況を私を苦しめた。



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