一目惚れ【短編】

「これ、あげるからさぁ~、ちゃんと顔見ときなよ!!」


そう言い、私に向かって放り投げたのは、手鏡。

私にあたり、ガシャンと地面に落ちてしまう。


「…………」


「せっかくあげたんだから使ってね~~」


なんて言うと、笑いながら去って行った。


「ちょっと……都姫!!!!何で言い返さなかったの!?」


今にも、とびかかりそうな勢いの桂香ちゃん。

ダメ、そんなことしても何にもならないし。

それに、問題起こして学校を退学になったら、シャレにならないでしょ。


「なんでって……ああ言うの嫌いだから。それに……」


「それに?」


「私が、遊君に似合わないの分かってるから」


地面に落ちた手鏡を拾う。

そこに映っていたのは、2つに三つ編みをして化粧っ気のない女の子。

確かに、おしゃれな遊君に似合うはずないね。



夢だったと思おう。



そう、ただの偶然だった。


たまたま、遊君のおとし物を拾ったのを届けただけの……。

それなのに、勘違いして……私、バカみたい。


フフッと笑いながら、


「私、バカだねぇ~」


なんてつぶやく。

拾った手鏡に、ぽたりぽたりと滴が落ちる。


「ほんと、身分知らず……」


そう言って、しゃがみ込む。


「都姫……。ちょっとうちに来る?」


背中をさすりながら、心配そうに肩を抱いてくる桂香ちゃん。


優しいね。


「大丈夫だよ。初めから何も無かったんだから……」


「我慢しないの!!辛くなったら、いつでも連絡してくるんだよ」


「あはは、ありがとう」


桂香ちゃんの、そういう正義感が強くて優しい所が好き。

私は泣きながら笑った。


「桂香ちゃん、帰ろうっか」


「もう、お買い物はいいの??」


「もういいや。疲れたから帰る~」


そう言って、私達は駅に向かって歩き出だした。

だんだん影が伸びていく。

明日から、少し早く学校に行こう……。

あの電車には乗れないや。


< 19 / 32 >

この作品をシェア

pagetop