御曹司の溺愛エスコート
「本当に知りたいの?」


あの時の事を話すのは苦痛だった。


「もちろん知りたい」


桜は喘ぐように呼吸をすると、口を開いた。


「……あの日……別荘に行って……しばらくしたら……望君が厩舎に行こうって。馬におやつをあげる為ににんじんと角砂糖を持って……夜にそんな事を言うのはおかしいと思ったんだど……」


蒼真は静かに聞いている。
その表情は真剣そのものだ。


「……厩舎に向かう時から望君は様子がおかしかった。ふらついたり、くすくす笑ったり……付いて行ったの。そうしたら……いきなり抱きつかれて……」


乱れ始めた呼吸を整えようと一息吐いた。
桜の手が震えだすのを見て、蒼真の表情が歪む。


桜の様子がおかしくなって来た。
思い出すのが苦痛なんだろう……。
だが、桜には可哀想だが真相を知りたい。


「え……っと……どこまで……だっけ……?」

「望に抱きつかれた」

「そう……抵抗すると望君はふらふらと倒れこんだの。慌てて起こそうとしたら押し倒されて……」

「何かされたのか!?」

「……キス……必死に抵抗したら、側においてあったガス式のランタンが倒れて……あっという間に干し草に火が移って……」


あの時の事を鮮明に思い出して、吐き気を覚える。
桜は両手を頭に置き、ガタガタと震え始めた。


倒れちゃダメ……。


荒い呼吸をする桜に蒼真は慌てて近づく。


「桜! どうした!?」

「だ……め……」


蒼真の腕の中で桜は意識を失った。

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