ガーベラ
プロローグ

寒い

寒い

寒い



すでに指先に感覚はなく、そっと唇に触れると、本当に氷を口に当てた時と同じように冷たい。



寒い

寒い

寒い



暦は吐く息も凍る一月下旬。
いちおう日本なので本当に凍るようなことはないが・・・・・・・



寒い

寒い

寒い



携帯のデジタル時計は午前9時42分をかたどっている。
すでに約束の時間を12分オーバー。



寒い

寒い

寒い



やっぱり送信ミスなのだろうか・・・・・・・
しかしこれくらいの遅れ、ヤツにとっては日常茶飯事である。



寒い

寒い

寒い



思い切ってリダイヤルを押す。
携帯を耳に当てつつ、念を送る。



寒い

寒・・・・・・・


それにしたって、何にしたって寒いものは寒い。
携帯を持つ指がてんで不自然な方向をさしている。

「お客さまのおかけになった・・・・・・・」

やる気のないデジタル音声に思いっきり舌打ちを聞かせてから終話ボタンを押す。
次の瞬間、肺の中身を一掃するかのごとく息を吐き出した。

「まったく・・・・・・・」
携帯をカバンの横ポケットに押し込むと、マフラーを鼻の下まで覆うようにグルグルと巻き直し、もう一度腹の底から息を吐き出す。
そしてそのエネルギーを最大限活用し立ち上がった。
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