~color~


「ねぇ、伊織ちゃん大丈夫?」


待機場所に戻るなり、黒服があたしの顔を覗き込んだ。


「え?あ、平気」


大丈夫なわけないだろなんて思ったから平気とだけ言葉が発された。



「全然、平気そうじゃないけどね、あんなにテンパってる伊織ちゃん見るの初めてだわ」



そんなこと言われなくたって、あたしが1番良くわかっているのだ。


仕事中にあんなミスをしたこともなければ、お客さんの前であんなにテンパったこともない。



私情をどんなことがあっても持ち込まない


そんなのご法度だとずっと思って今日の今日まで仕事してきたのに……



「次、指名で川澄さんがきてるけど」


「うん、もう行ける」



よし、頑張ろっ!!



そう気合いを入れて立ち黒服の後ろへと続くと、


フィールドの中を胡散臭いシャンデリアに照らされながらあたしは歩いた。





翼を出会った10年後のあたしは


金と欲望が絡み合う世界で生きている



何が本物で何が偽物かなんて


もう麻痺をして分からない



店の外を出たってこの街は人工の光ばかりで


本当の空の色はどんな感じなのかすら忘れてしまう。




それでも、あたしはこの街で生きてた。



翼と出会ったこの街に


2年前に戻ってきたのだ。



何を得て、何を失ったのかさえわからなくて


だけど1つだけ言えるのは






あの日置いてきてしまったあたしの心



それだけはきっと翼のところにあって


一生失ったままなのだろう。






ねぇ?翼……



でもあたし、笑ってるよ。



だってね、心を置いてきた代わりに


手に入れた素晴らしいものがあるから……。










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