~color~



「いい飲みっぷりだね、なんかいいことでもあった?」


ニヤニヤしながら体を近づけてくる。


いつもなら上手く交わすのに、今日はなぜか、そんな自分が発揮されず、体を押してしまった。



「いいことなんて、なんもないよぉ~」



空いた2つのグラスに一刻も早くお酒を入れ、仕事するふりをして、やっと押しのけたその体。



いつになく、鳥肌が立つ。



「俺はね~今日はいいことあったんだ」


「そうなの?」


「うん」



「はい、どうぞ!」そう言いながら、目の前にグラスを差し出すと、手を握られた。



「今日は、伊織ちゃんから、ハートマークの付いたメールが送られてくたから」



「えっ?」



「たまに、来るんだ。なんていうか、それだけで嬉しくてさ……」




『誰にでも、ハートマークつけない方がいいよ!!男は勘違いするからねぇ』



忘れていたはずなのに

閉じ込めてきたはずなのに



消し去ってきたはずなのに



その言葉が駆け巡ってあたしを支配し、遠いところへと連れていく……



「ハートマークがあるだけで、違う」


嬉しそうなお客さんに「もう付けることはないよ」そう言い残すと「トイレ行ってきます」と笑顔で立ち上がると、そのままトイレへ向かった。





< 32 / 378 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop