AKANE
「殿下、これは一体どういうことでしょう」
 青年のすぐ後ろで剣を鞘に収めた小柄な騎士が、困惑の表情を浮かべながら言った。
「われわれの読みが甘かったようだ。これからのことは一度城へ戻ってからゆっくりと検討するにしよう」
 青年は目線をほんの少しだけ後ろの騎士にやると、落ち着いた口調で答えた。
「さて、君の名前は? おれの名はフェルデン・フォン・ヴォルティーユ」
 ふっと優しく微笑むフェルデンの瞳は、美しく透けるようなブラウンであった。
「・・・朱音・・・」
 震える声の少女の髪をえらかったねとばかりにフェルデンは優しく撫でた。
「よし、アカネ。おれ達は君を傷つけたりしない。どうやら君は怪我をしているようだ。手当てをしたいんだが構わないか?」
 フェルデンの優しい声に、命の危機はどうやら去ったことを悟った朱音は、コクリと頷いた。と同時に、一気に気が緩み、その場へとくず折れた。
「アカネ!?」

 心配そうなフェルデンの声を遠くに聞きながら、朱音は再び眠りの淵へと落ちていったのである。



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