AKANE
「それより・・・、貴方、本当に何者なんです!? 僕は、貴方はこの国一の美容師クリストフと認識していましたが、行く先々で呼ばれる名も対応もそれぞれ・・・。クリストフにエリック、先程はロジャー、貴方は一体いくつ名を持っているんですか!?」
 ルイがぐいとクリストフに詰めより、きっと鋭く下から見据えた。
「えー、まあ、そうですね・・・」
 困ったようにぽりぽりと頭を掻くと、クリストフは窓の外を指差した。
「クイックル!!」
 窓の外でぱたぱたと羽ばたく白鳩に歓喜の声を上げ、朱音は慌てて窓を開けて小さな友を船の客室に招き入れた。
「一体どこに行ってたの? 心配してたんだよ」
 ちょんと朱音の肩に飛び乗った白鳩の首を優しく指で撫でてやると、ホロホロと気持ち良さそうに喉を鳴らした。
「彼女には、魔城での様子を見てくるようお願いしていたんですよ」
 この白い友達は、三人がボウレドに滞在している間中一度も朱音の前に姿を現してはいなかった。
 クリストフが懐から麻の袋を取り出すと、中から小さな実を手の平に取り出し載せた。それを見たクイックルは、目を輝かせてその手にパサパサと飛び乗った。
「その実はなに?」
 好奇心旺盛な目で、朱音はベッドから立ち上がりクリストフの元へと歩み寄ると、クリストフの手にある実の一つを摘んでまじまじと見つめる。
「リガルトナッツですよ。彼女の大好物なんです。酒のあてとしてもよく出されるんですよ。」
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