AKANE
 手下の男達はそれでも器用に布の隙間からゴムの袋に入った水を飲み、水分を補給していた。朱音にも何度か水分を与えられたが、頭の男はほとんど水を口にしようとしなかった。男は何も言わなかったが、おそらく、朱音が男の分の水を放り投げられたせいらしい。
 朱音はなんだか申し訳ない気持ちになり始めていた。自分の分が無いのなら手下に少し分けてもらえばいいのに、彼は決して手下の貴重な水をとろうとはしなかった。
「あと一刻も走れば、アストラの砂漠を抜ける。このまま一気に乗り切るぞ」
「おう、お頭」
 渇きをまるで感じさせない頭の男は、ひょいと身軽にチッポカに飛び乗った。朱音はここで放置されても困るということもあって、大人しく男のチッポカによじ登った。

 いくらなんでももうこの暑さにも限界がきていた。
 頭の中では鐘が打ち鳴らされているようなひどい頭痛がするし、渇ききった口の中。目が霞み、気を抜くと物が二重、三重にも見える。
「お頭!」
 こんな中、どこにそんな力が残されているのかという位、手下の男が張りのある声で叫んだ。
 気がつくと、一面砂漠の景色が、ところどころ岩がでっぱり、短いながらも緑の草が生え始めている。
「砂漠を抜けたの?」
 頭の男は小さく頷いた。
 その直後、おもむろに頭に巻きつけていた布をぱさりと脱ぎ去る。
「久しぶりだな! アカネ!」
 布の下から出てきたのは、炎のように真っ赤な真紅の髪と、褐色の肌。大きな石の耳飾り。そして、どうして今まで気付かなかったのか。燃えるような緋色の瞳・・・。
「エフ!?」
 にかりと笑うと、男は言った。
「本名はファウストだ。ようこそ、我故郷へ」 
 これは、フェルデンが帰還するよりも少し前の予期せぬ出来事であった。
 
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