AKANE
 アザエルは、朱音が国王としての自覚を持ち始め、以前とは違い、その責任を果たそうとしていることに気付いた。今、朱音はゴーディアの国王として相応しい王へと変化しつつあった。
 逃亡から始まったこの旅は、朱音にとってはきっと必要なものであった。   
けれど、それには多くの犠牲が払われた。こうした経過でさえ、有能な魔王の側近アザエルの当初の計画に、これら全てが練り込まれていたのかもしれない。その真実はこの有能な魔王の側近の心の内だけが知っている。

 さっと視界に茶色い塊が宙を横切り、その物体がディートハルトの逞しい腕にがしりと舞い降りた。
「鷲!?」
 この凄まじい空間に、悠々と入ってきた立派な鷲のような鳥は、鋭い足に結わえ付けてある紙切れをくいとディートハルトに差し出した。
「これは・・・!」
 険しい顔で紙を開いたディートハルトは、その文面に目を走らせた後、表情を曇らせてヴィクトル王にそれを渡した。今にも倒れそうな王の表情が、それを読んだ途端きっと唇をきつく結び鋭い目つきを取り戻した。
「リーベル艦隊が全滅した・・・」
 予想はしていたものの、あまりに過酷な現実。
 アルノは華々しく海で散っていったのだろうか。彼が城を後にしたときに見た背中が、ヴィクトル王が彼を見た最後の姿となってしまった。 
「ディートハルト・・・。悪いがすぐに戦地へ向かってくれ。魔笛艦隊が我領土内に侵攻するのは明日だそうだ・・・。沈めた船の数は三分の一にも満たかった。予定よりもかなりの勢力を残して乗り込んでくる。そなたが行くまでフェルデンが持ってくれれば良いが・・・」
 朱音の嫌な予感は的中した。
 あの愛する青年が、戦火に今にも飛び込もうとしている。
「ディートハルト・・・、フェルを頼むぞ。あいつはサンタシの最後の希望なのだ・・・! 決して死なせるな・・・!」
< 306 / 584 >

この作品をシェア

pagetop