AKANE

8話 夢幻と少女


 白亜城へ向けてサンタシとゴーディアの騎士達が疾風の如く馬を走らせる最中、朱音の異変を感じ取ったのは馬に同乗していたライシェルその人であった。
「陛下?」
 突然脱力したかと思うと、その華奢な朱音の身体は危うく落馬しかけたのだ。寸でのところでライシェルはだらりと力無く気を失っている朱音の腕を捉えた。
 サンタシ騎士団の後に続き、黒の騎士団の先陣を切って駆けていた馬を突如急停止したので、後に続いていた騎士達も慌てて自らが乗っている馬の手綱をいっぱいに引き、砂埃を巻き上げながら停止させた。
「ライシェル指令官補佐、どうかなさったのですか!?」
 黒の騎士団で唯一の女騎士、タリアが、心配そうに馬で近付いた。
 ライシェルはとりあえず朱音の身体を馬の背で安定するように抱え直すと、ぼそりと一言溢した。
「熱い・・・」
 タリアはその意味を感じ取り、少年のように短く刈った海(み)松(る)色(いろ)の髪をふわと揺らして、ひょいと馬から飛び降り、そして朱音のぐったりした額に手を触れた。
「・・・すごい熱ですね・・・。今までよく平気な振りをしておられたものです・・・。見たところ、酷いお姿をしておられますし、相当疲労が溜まっておられるようです」
 前を走るサンタシの騎士達の姿は、既に視界から消えていた。
「このペースでの疾走はもう無理だ。この辺りで少し休みをとる。お前達は先に行ってサンタシ騎士団に合流しろ。おれが追いつくまでは指揮はお前に任せる」
「はっ」
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