AKANE
「では、参りましょうか。それまで少しお眠りください」
 アザエルがとんと朱音の額に手をやると、がくんと朱音の身体が急に力を失った。
 眠りに落ちた朱音の身体を再び肩に担ぐと、アザエルは何事も無かったかのように洞窟の外へと歩き始めた。
「くそっ、待て! アカネをどうする気だ!」
 掠れた声でフェルデンが叫ぶ。しかし、出血の量が多く、体が思う様に動かず、足に力が入らない。
 フェルデンは氷のように冷たい碧眼と碧髪の男を心底殺してやりたいと思った。そして、こんなにも無力で、大切な人さえ碌に守りきることさえできない自分を呪った。
 洞窟を出た途端、アザエルは掻き消えるようにして姿を消した。
 
その後の静寂の中で、フェルデンは悔しさで唇を噛み締めた。
「アザエル・・・、貴様は絶対に許さない・・・!」
 そして、愛らしい黒髪の純真な少女を思い、何度も洞窟の壁に自らの拳を血が出るまで打ち付け続けたのだった。


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