AKANE
「まさか一人で来てるとかないよねー? そんな淋しいことしてたら、黴生えるよ~」
 お洒落にも一切手抜きをしない彼女は、今日もピンク色のワンピースに、ちょっぴりヒールの高いパンプスを身につけている。ほんのりと施された化粧が、同性の目から見ても思わず真似したくなるような可憐さを醸し出している。
「まさかの一人だよ。ってかさ、愛美こそ、また新しい彼とデート?」
 にっこりと微笑むと、愛美は綺麗にネイルアートされた人差し指で、入り口付近のテーブルを指差した。
「あったり~~。あの爽やか青年が愛美の新しい彼です」
 見ると、J’sのメンバーにでもいそうな爽やか系の男の子が、何やら雑誌に読み耽っている。
「あの人、もしかして高校生?」
 受験生では絶対いそうにない、金のメッシュの入った髪に、朱音はぴんときた。
「そっ。高校の体験入学のときに仲良くなったの。彼は高校二年生。なかなかのイケメンでしょ?」
 恋愛経験のあまり豊富でない朱音にとって、“年上の彼氏”というものが、ひどく凄いことに思える。
「愛美、ほんとあんたってすごいよね・・・」
 呆れる程感心し、朱音は開いた数学の参考書をぱたりと閉じた。そろそろ気分転換にジュースでも飲みに行こうと思ったのだ。
「こらこら、何言ってんの。朱音だって女の子じゃん。年頃の女の子が、彼氏の一人や二人いないでどうする! ファーストキスだって、時期を過ぎたら賞味期限切れちゃうよ~~」
 べっと舌を出して、愛美が小声で説教する。
「ん・・・? わたし、もうファーストキス終わっちゃってるよ?」
 ぎょっとして、愛美が思わず身を乗り出す。
「へ!? ちょっと、朱音。それ、わたし聞いてないよ?? 一体いつ、誰にあげちゃったの!?」
 そう問い詰められて、朱音ははたと困って考え込んだ。
(あれ・・・? そういえばわたし、一体誰とファーストキスしたんだっけ・・・?)
 確かに誰かとした記憶はあるのに、その相手が誰だったのかさっぱり思い出せない。
 けれど、なぜかその時でさえ、今朝の蜂蜜が頭を過ぎっていた。ただ、あの蜂蜜色が、どうしてかファーストキスに関わっている気がして仕方が無かった。
 

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