AKANE
 城を占拠し、ヴィクトル王をここまで追い詰めたというのに、どういう訳かヘロルドは今、不利な状況に陥りかけていることに気付いた。
(ど、どういう訳だ・・・!? そうか、この男が現れたことが、全ての原因だ・・・! どうする・・・!? この状況を一体どうやって切り抜ければよい!?)
 切羽詰ったヘロルドの脳裏に、ふと意外な切り札が思い出された。サンタシへ向かう途中の、思いもしない拾い物・・・。
「おい、お前、あいつはどこへ行った!?」
 今、アザエルは鋭い水の剣の切っ先を、ヘロルドへと向けようとしていた。慌てて兵士を睨みつけるが、兵士はびくりと跳ね上がるだけで、すっかり金縛りにあったように固まってしまい、誰も答えようとはしない。
(くそっ、こんなところで殺されてたまるか! この肝心なときに、あいつはどこへ行った!?)
 ヴィクトル王は、碧く美しい魔王の側近の感情を一切感じさせない冷淡な姿を目にし、自分達は長年の間、こんなにも恐ろしい相手を敵にしていたのかと、改めて感じていた。  
「おいおっさん。何かやばそうだけど、もしかして俺を探してたり?」
 ふいにヴィクトルの後ろから快活な声がした。
 驚き振り向くと、燃え盛る炎のごとく赤い真紅の髪と緋色の瞳の青年が、ヴィクトル王の椅子に寛いだ様子で深く腰掛けている。まるで最初からそこに座っていたかのように、青年は足をゆったりと組み、肘掛けに褐色の肌を露出させた手を悠々と伸ばしている。
「その髪! ファウストか・・・! 一体どうやって入った!?」
 
 王室に、新たな厄介者が一人、紛れ込んできたようだ。

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