AKANE
「名残惜しいが、あんたの相手はここまでだ。クロウ王が追いつくまでに、俺はあんたを仕留めたかったんだが・・・。残念なことに、こっちも味方が到着しちまったみたいでな」
 ぐんと勢いよく赤い飛竜を反転させると、目にも止まらぬ速さでファウストは真上へ急上昇した。
 すぐに雲の上へと見えなくなってしまった赤い飛竜の姿を追おうとするが、スキュラは真横からの突然の強い突風に煽られ、それを妨害されてしまう。強く空中で揺すられ、スキュラは空中で数度回転しながらバランスをなんとか取り戻す。
 アザエルはその目まぐるしい中で視界の端に新たな人物の姿を捉えていた。
(ヘロルド・・・!!)
 じっと目を細め、アザエルは出現させていた蛇ような水を消失させる。碧く長い髪は、流れる水のようにたおやかに宙をひらひらと舞っていた。
 しかしその美しい顔はどこまでも冷たく、そして何もかもを見透かしたような眼に、朱音は思わずドキリとしてしまった。
 その直後である。わざとなのか、そうでないのか、アザエルの身体がすっと宙を回転し続けるスキュラの背から離れ、落下していった。
「アザエル!!!!」
 咄嗟に叫んでいた朱音だったが、アザエルは地面に直撃する直前に、多量の水を地に出現させたのだ。
 朱音が実際にこの術を目にしたのは、これで三回目になる。流れ出た水の上に、流されることなく自然に着地すると、アザエルは冷ややかな表情を相手に向けた。
 着地したアザエルのすぐ目の前に佇んでいたのは、ヘロルドその人であった。
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