AKANE
 いよいよ、二人でここを乗り切るには厳しくなってきた。
『グルルルルル!!!』
 空を旋回していた飛竜の様子がおかしい。
 どうも、スキュラが尾っぽをマブの一匹に齧(かじ)られたらしい。痛々しい血を流し、痛みに呻きながらふらふらと地上へ向けて舞い降りてくる。マブの毒にやられたのか、身体が自由に動かせないようで、苦しそうには呻いていた。
「噛まれたか・・・!」
 赤き竜がスキュラを守るように、炎を吐き出しながら周囲のマブを追い払っている。
 あのおぞましい生き物は炎には弱いらしく、炎に飲まれたものは 『ボオッ』 と赤紫の毒々しい炎を上げてボテボテと地上に落下してゆく。
「どうやら、下手に切り刻まん方がいいようですな。焼き払うのが手っ取り早い」
 ディートハルトの意見は尤もであったが、今ここで助けになるのは赤い竜の吐き出す炎だけである。
(どうしたものか・・・)
 フェルデンは襲いかかるマブをなるたけ斬らないようにと、うまく避けることに徹しようと努力するが、咄嗟にこの生物を斬らずにはいられない。
 地上で苦しむスキュラと、心配そうに寄り添う赤き竜にも、マブが続々と群がり始めていた。
 上では蒼黒の翼をははためかせた、禍々しい親子が空中戦を繰り広げている。
 魔王ルシファーは大きな鎌を手に、息子クロウは頑丈な盾のようなものを手に激しいぶつかり合いをしているのが遠目にもわかった。二人の闘いは、すでに人間の闘いの域を遙かに越えたものであった。
「ひどいですよ、師匠もフェルデン陛下も。俺を置いていくなんて」
 マブを切り捨てた瞬間、ディートハルトは空耳かとふと顔を上げた。
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