AKANE
「今ここでお前を殺してやりたい・・・」
 若い騎士は両手を少年王の首に掛けた。
「・・・フェ・・・」
 首を締め付ける手に、その冷え切った冷たい手に絶望しながらも、朱音はその大きく男らしい手に自らの白い手を重ねた。
(貴方に憎まれる位なら、このまま貴方の手で殺して・・・)
 息苦しいさの中で、生理的な涙を浮かべながら、朱音は目を閉じた。

「殿下! 何してるんですか!?」
 突然激しい怒号が響き、何者かの手で、朱音の首に掛けられたフェルデンの手が強制的に引き剥がされた。
「ごほっごほっ」
 咳き込みながら床にくず折れると、ぼやける視界に小柄な青年の姿が入ってきた。心配そうに覗き込んでくるモスグリーンの瞳。
「ほんとに、一体どうゆうつもりです!? こんなことして、ただで済むとお思いですか!?」
 小柄な青年はいきり立ってフェルデンの胸倉を掴み、自らの拳をその頬に叩き付けた。鈍い音とともに、フェルデンはどさりと床に転げると、小さな呻き声を洩らしてゆっくりと身体を起こした。口腔内が少し切れたのか、薄い唇の端かからじわりと紅い血が滲む。
「クロウ陛下、大丈夫ですか?」
 小柄なサンタシの騎士は、そんなフェルデンを放ったまま朱音の身体を起こす手伝いをする。
「申し訳ありません、どうかこの方のしたことをお許し下さい。我国サンタシは、ゴーディアとの戦を望んではいません。どうか・・・」
 呆然としたまま、フェルデンは口元の血を手の甲で拭った。自分が今何をしようとしていたのかを悟り、ひどく動揺しているようだった。
「ごほっ、だ、だいじょ、ごほっ」
 咳き込みながら、なんとか朱音は答えようとするが、うまく声が出ない。
 ほっとしたように、小柄な騎士は朱音の背を支えるようにして起こすと、そっと近くの壁に持たせ掛けた。
「ユリ・・・、おれは・・・」
 フェルデンは友の手によって正気を取り戻し、ぐしゃりと頭を両腕で抱え込んだ。
「一体どうしたというんです? 貴方がこんなにも正気を失うなんて・・・」
 ユリウスは険しい表情を浮かべて、すっかり消沈してしまった長身の指揮官に投げかけた。
「隠し部屋で・・・黒い棺を開けて中を見たら・・・、アカネが・・・」
 震える声でフェルデンは頭をぐしゃぐしゃと掻き毟った。
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