隷従執事の言いなり
確かに、私の耳には届いたのに。
一生呼ばれる事は無いと思っていた呼び方。
「今、呼んだでしょ?聞き間違いだなんて、言わないで」
私はたった今、これだけの事で天にも昇る気分なの。
それが、間違いなんて…嫌。
「なんとか言ってよぉ…」
『椿様私は『椿さん』
碧が何か言おうとした瞬間、それを遮るように現れた拓真さん。
『遅いから様子を見に来たんだけど……』
なんてタイミングの悪い…。
拓真さんも、お取り込み中だったかな…、と一歩引いて様子を伺っているようだ。
『紀津様、ご心配おかけいたしました。さ、お嬢様戻りましょう』
拓真さんから碧へ視線を戻すと、そこにはもう執事の碧しかいなくて。
私だって、拓真さんのいる前であんな話が出来るわけないのは分かってる。
かといって拓真さんを追い返すわけにもいかない。
「……そうね、戻りましょう」
だから碧の言葉に従って、素直に戻った私だったけど、
何かとても大切なチャンスを逃した気がしてならなかった。
碧の心を開かせる、何かとても大切な。