青年 アキノ。
 俺は乙に向かってしっし、と犬か猫を追い払うかのような身振りで、右手を振って見せたが、乙はそんな俺の気持ちとはウラハラに嬉しそうにずっと手を振り続けた。

 アイツは俺にとって天使のようなかわいい妹なのか、それとも悪魔のような疎ましくもオソロシイ存在なのか・・・・・・。    


 ま、ともかくとして。

 邪魔者はいなくなった訳だが、まだ乙は俺が仕事を辞めたということは知らないようで、一安心だ。

 何せ、アイツに今の素性が知れでもしたら、それこそ一大事だからな。自分がどんなバイトをしてるのかは人には絶対に言わないくせに、俺の事となるとハイエナの如く傍に寄ってきてクンクンと匂いをかいでは、ちょっとでもおかしなにおいがしようものなら「お父様ぁ~!!」「お母様ぁ~!!」って告げ口しに行くんだから。(ヤな奴だなぁ・・・)

 それは昔からの奴の性格だし、人の告げ口で這い上がって来た様な奴だから、俺が言うのも何だけど、グラビアアイドル顔負けのカワイイ顔して、ちょっと手強い相手でもある。

 そう思うとやはり乙は妹というより、もはやただの「小悪魔」なんだろうか・・・・・?

 あ、そんな自分の妹をアイドルだの小悪魔だのと褒め称えてる暇は俺にはないんだった。
 
    これぞ「弱肉強食」の世界。

 そんな妹のことを考える前に、己の事を心配せねばっ。

         しかし。

 ああ、今日こそ本当に自宅に帰りたくなくなってきてしまったわ・・・・・。

 いっそここで野宿でもするかなぁ・・・・。
 
 それともどこか遠くの、誰も俺を知らない土地にふらりと行って、そこに永住しちゃおうかなぁ・・・・・。

 そんなことを考えていたら俺は思っていただけでなく、無意識のうちに駅まで歩いていきどこに行くまでもなく切符を買い(運賃は足りなきゃ降りた駅で清算出来るしな、と思い)気付けば俺は電車で東京から結構離れた茨城県まで来ていた。



 そこは俺が今まで足を踏み入れたことのないある山の入り口だった。

 ここでもし遭難でもしちゃったら、
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