プラスマイナス、



「すみません、俊英が幼稚園に行きたくないとごねてしまって…」



母は嘘が上手かった。

俊英が服で隠せない部位に痣を作ったときにはこのような嘘を吐き、痣が治るまで幼稚園に行かせようとはしなかった。



家事は小学校にあがる前に、ある程度覚えさせられた。
完璧主義の母親の教育だった。

若い頃は勉強も運動もそつなくできた彼女にとって、子どもという存在は“未完成”でしかなく、俊英は厳しい教育を受け、小学校入学前から中学生の問題を解けるようにさえなった。


解けなければ怒鳴られる、叩かれる。

母が怒鳴れば、隣の部屋で寝ている父が起き、母を怒鳴らせた僕を殴る。


恐怖の一心で取り組んだ勉学だった。


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