天の邪鬼な私とアイツ
完全なフリをされて、アイツは一瞬困った顔をして何かを決心したように口を開けた。

やだ、聞きたくないよ。

また逃げ出してしまおうかと思ったけど、今度はクラスのみんなに囲まれていて身動きが取れなかった。

「口説き文句、ですか…。」

躊躇うように、ゆっくり口を動かす。

「さっきも言ったんですけど、俺好きな子には素直になれなくて、全然優しくも出来ないんです。」

アイツの言葉に体育館中がざわざわする。

私は体中に力が入ってしまって、息をすることすら心許ない。

「普段そっけない態度ばかりだから、もし彼女に言えるなら回りくどいこと言わずに、素直に『好きだ』って伝えます。」

アイツはやっぱりまっすぐ前を向いていて、観客席の中央に座っていた私は奇しくもアイツの視線上にいた。

ドクン ドクン

どこを見ているんだろう。

焼けるくらい熱いあの視線はどこに注がれているんだろう。

誰を想って『好きだ』って言ったの?
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