豹変時計







先に保健室から出た敦之が、廊下を見渡した。

「…いなくなった、みたいだな。」

優貴も保健室から顔を出し、頷く。

「ああ。」



「また吐きそうなときは言えよ?」

敦之が振り向き、はにかむ様に笑う。

「…もう…吐かねーよ」


不機嫌そうに、しかし申し訳なさそうに優貴は視線を落とした。



「よしよし」と敦之が顔を背けて優貴の髪をクシャクシャにする。




優貴が何も言わず、それを受けていたのは

彼が飢えている《家族の愛情》に似たものを、感じ取ったからかもしれない。





再びやって来たグランド。



外はすでに薄暗く、野球部の掛け声も空に吸い込まれて行くようだ。


優貴は半ば這いつくばるように、何かを探している。


「で、何を手伝えばいいんだ?」

敦之は頭を掻いた。




「………あった!」


優貴は何かを手に取ると、立ち上がった。


「これを出来る限り、探して欲しいんだ。」

「はあ。この紙切れを………」







二人乗りの自転車が、S高校の敷地を出た。



「あ〜あ…真っ暗だぁ」

後ろに乗った敦之がぼやいた。


「本当ごめん…」

「いや、役に立てたんなら良いんだけど。」


「役に立つどころじゃない。今日はお前に感謝しっぱなしだ。」

自転車を漕ぐ優貴は、見えない敦之に微笑んだ。



「あの紙、何?」
敦之は優貴の肩に顎を乗せた。


「俺もよく分からないけど…あるヤツの秘密、かもな」

(俺が間違ってなければ………)


「…っ!何して…」

「抱き締めてる。」

「知ってる!離せ!!」

(まさか…藍原まで…?)


「何で。俺のこと嫌い?」


優貴は蛇行運転でなんとか敦之の腕を振り払おうと奮闘した。


「そういう、問題じゃ、ねぇ!!」

腕が離れると、優貴はすかさず自転車から降りる。



「つれねーヤツ…」

「悪かったな…」

「今のは冗談だ」

「そうは思えなかった」

「うん。半分マジだから」


「………」
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