嘘婚―ウソコン―
数分後、千広はクーラーが効いている室内にいた。

「すまないな、水しか置いてなくて」

トンと、陽平は水が入ったグラスを千広の前に置いた。

グラスには氷がたっぷり入っている。

さっきまで炎天下にいたから、喉が渇いているはずだ。

なのに、千広はグラスに手を伸ばせなかった。

「買い出しに出ようとしたら、あいつがいきなり押しかけてきてさ。

今すぐ離婚しろなんて言われちゃってさ…ったく、アポくらいとれっつんだよ。

ビジネスとしての常識だっつーのに」

陽平は呆れたと言うように頭をかいた。

千広はグラスの中の氷を見つめることしかできない。

「水道水だから飲めばいいよ」

陽平が言った。

「――復讐、だったんですか?」
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