嘘婚―ウソコン―
と言うよりも、原因を作ったのは陽平じゃないか。

千広はそんな思いをこめながら陽平をにらみつけた。

「悪ィ」

千広のにらみつける視線に気づいたと言うように、陽平が謝った。

ジーンズのポケットから財布を取り出すと、千広の前に1000円札を差し出した。

「つりはいらない」

手で拒否する動作を見せた後、陽平は椅子から立ちあがった。

陽平が店を出て行く後ろ姿を千広は見送った。

――チリリン

ベルが鳴って、ドアが閉まった。

それが鳴り止んだことを確認すると、
「絶対バカにしてる!」

千広はドアに向かって言った。

陽平が差し出した野口英世の顔がムカついた。

今すぐ後を追って、結構ですと言って突き返してやりたい気持ちになった。
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