もうひとつの卒業
拓馬も早苗も、返す言葉が見つからなかった。


美鈴は金網をつかみ、拓馬だけを見つめた。


鬼の形相が一瞬和らぎ、優しい顔になった。


「拓馬。

愛していたわ。

ずっとずっと。

今日のあの瞬間まで。

さよなら」


美鈴は金網から手を離すと、ゆっくりとみんなに背を向けた。

そして何の迷いも無く闇夜に向かってジャンプした。

それは奇麗な放物線を描いて落下した。


あとには拓馬の大きな叫び声がこだましただけだった。

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